はじめに
心臓病、特に心筋梗塞は、血管の動脈硬化をもとに発症します。動脈硬化は、高脂血症、高血圧、タバコなどの危険因子の集積によって生じます。動脈硬化は、血管が4分の3閉塞するまで無症状で進展するので、動脈硬化の予防には無症状のうちから危険因子を取り去る努力が必要です。
危険因子としては、高脂血症、高血圧、タバコの三大危険因子の他に、糖尿病、肥満、ストレス、運動不足があげられます。
ここでは、心筋梗塞の第一の危険因子である高脂血症を中心に、食事療法について述べます。
1.高脂血症の治療
治療の目標値として、コンセンサスカンファレンス(表1)での値が基準となります。治療は、まず食事療法が基準で、食事療法で効果があがらない場合、目標値に達しない場合には、食事療法に薬物療法をかぶせる必要があります。
食事療法により、TC(総コレステロール)で10〜20%、TG(トリグリセライド)では、50%以上(50〜60%)の低下が期待出来ます。従って、危険因子が高脂血症のみの場合、TCで250mg/dl前後、TGで300〜400mg/dl程度までは、食事療法のみで治療が可能です。
2.食事療法の実際(高コレステロール血症)
コレステロールの高い場合には、まず第一にエネルギーの制限が必要になります。これは、摂取エネルギーの増加が、体重の増加を介して、肝でのコレステロール合成の増加に結びつくためです。適正なエネルギー制限は、標準体重×30kcalとします。
次いで、摂取コレステロールを300mg以下に抑えます。しかし、これは、コレステロール摂取によって、血中のTCが増加する人(respondor)と、コレステロール摂取にもかかわらず、血中のTCに変動を認めない人(nonrespondor)が存在するため、正しくは、卵などを用いてのコレステロール負荷を行い、respondorとnonrespondorとの判定をした後、respondorに対して、コレステロールの摂取制限を行う事が望ましいことになります。
respondorを決めている要因が、遺伝子的要因かその他の因子か、現在の所、不明です。
具体的なコレステロール制限は、卵、バター、トリ肉のレバーや皮に注意すれば、充分です。卵(M、L)1個に含まれるコレステロールが、250〜270mgなので、卵の摂取は、2日に1度位の割合にすればよいでしょう。
3番目に、脂肪摂取の割合を総エネルギーの25%以下とします。脂肪酸には、飽和脂肪酸(S)、一価不飽和(M)、多価不飽和脂肪酸(P)があり、この脂肪酸の割合は、S:M:Pが1:1.5:1とします。飽和脂肪酸は、動物性脂肪に多く、TCを上昇させます。多価不飽和脂肪酸は、リノール酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)など、植物性脂肪に多く含まれ、リノール酸には、TCの低下作用(胆汁酸の排泄促進作用、コレステロール合成抑制作用→LDL受容体増加)が認められます。一価不飽和脂肪酸は、オレイン酸が代表格ですが、オリーブ油に多く含まれています。オレイン酸には、リノール酸と同程度のTCの低下作用のある事が認められています。
多価不飽和脂肪酸は、さらにα−リノレン酸(18:3)、EPA(20:5)、DHA(20:6)のω−3系脂肪酸と、リノール酸(18:2)、γ−リノレン酸(18:3)、アラキドン酸(20:4)のω−6系脂肪酸にわけられます。このω−3:ω−6の比は、1:4が適正と考えられています。
これらS:M:P比、1:1.5:1、ω−3:ω−6比、1:4の実施については、従来の日本の食事を是認した形で決められた経緯もあり、肉を主体とした洋食中心の食生活から、魚を主体とした和食中心の食生活に変えるだけで、S:M:P、ω−3:ω−6の基準を満たすことが可能です。
多価不飽和脂肪酸は、又、シス型とトランス型にわけることができます。天然油脂は、すべてシス型ですが、マーガリンやショートニングに含まれるトランス酸は、TCを増加させます。欧米では、トランス酸の摂取を2%以下にするよう勧告されていますが、現在の日本における摂取量からみると、トランス酸の影響は無視できます。
食物繊維の摂取は、ビタミン類の吸収とも関連して重要ですが、基本的には、胆汁酸の腸肝循環をカットし、血中のTCを低下させます。この作用は、セルロース、ヘミセルロースなどの不溶性の繊維よりは、水溶性のペクチン、マンナン、リジンなどに認められます。食物繊維は、1日25g以上摂取する事が望まれます。
この他、たんぱく白質の中で、豆腐や納豆などに含まれている大豆たんぱくのTC低下作用が知られています。この作用は、大豆たんぱくのアミノ酸構成(リジン/アルギニン比)によると報告しているものもありますが、最近では、胆汁酸と結合してミセルを形成し、胆汁酸の再吸収を抑制すると報告しているものがあります。
又、魚に含まれているたんぱく質について、HDL−Cの上昇を認めるとする報告がみられています。
3.食事療法の実際(高トリグリセライド血症)
TGの高い場合、一般には、食べすぎ、肥満などにより、肝臓でのVLDL合成が高まっていることが多いのです。従って、VLDLの合成を抑えるために、適正なエネルギー制限(標準体重×30kcal)を行います。
又、TGの高い症例の多くは、アルコールに起因します。アルコールは、肝臓でのVLDLの合成を促進させます。このため、高TG血症に対するアルコール制限は、極めて高い効果があります。γ−GTPの値を参考にしながら、アルコール摂取量を把握し、的確なアルコール制限を指導することにより、高TG血症の是正が可能です。TGの低下は50%以上で、アルコール制限のみでの高TG血症の正常化も可能です。
この他、ω−3系脂肪酸であるEPAに、VLDL合成抑制から、TG低下作用のある事が認められています。
脂肪、繊維などの摂取については、高コレステロール血症の場合と同様に行います。
4.食事療法の実際(高カイロミクロン血症)
TGの高い場合、食事由来の外因性の脂質を運搬するカイロミクロンが増加する高カイロミクロン血症が含まれます。カイロミクロンの合成は、脂肪摂取量と相関していますが、通常、合成能と処理能が正相関しているため、高カイロミクロン血症は生じません。しかし、処理能が低下すると高カイロミクロン血症を呈します。この場合、脂肪摂取をエネルギーの10%程度まで制限します。又、脂肪を長鎖脂肪酸から中鎖脂肪へ変えることも重要です。
高カイロミクロン血症における食事療法の第一の目的は、膵炎の予防です。TGが1500mg/dl以上の場合には、膵炎の併発を考慮しなければなりません。
5.食事療法の実際(酸化LDL)
近年、酸化LDLの動脈硬化作用に注目が集まっていて、たんに、LDLを低下させるだけでなくて、抗酸化作用を有する食べ物を如何に上手に食事療法にとり入れて、LDLから酸化LDLに変化するのを防止することが重要になってきています(図1)。ビタミンEを含む小麦胚芽、大豆油、βカロテンをふくむニンジン、ビタミンCを多く含む野菜、果物、カテキンを含むお茶、ポリフェノールを含む赤ワインなどを、如何に食事療法にとり入れていくかが、今後の課題です。