日本人の全死亡に占める三大死因である、がんと心臓病、脳卒中は典型的な生活習慣病だ。かつて死因のトップだった脳卒中だが、医療の進歩などが理由で減少する一方、がんと心臓病は増加の一途をたどり、現在、脳卒中は3位だ。5月31日は世界中の人がタバコの健康への影響について考える世界禁煙デーだが、タバコはこの三つの病気の共通のリスクファクター(危険因子)でもある。「禁煙してもう10年以上」という日本脳卒中学会理事の福内靖男慶應義塾大学教授に、脳卒中の予防などについて聞いた
Q:脳卒中というのは、いろいろな病気の総称ですね。
A:「卒」は突然という意味で、「中」は病気になること。つまり、脳の血の巡りが急に悪くなる病気の総称です。血管が破れて脳の中に血の固まりができるのが「脳出血」で、脳の表面を走っている動脈のこぶが破れて血が脳の表面に広がるのが「クモ膜下出血」。一方、血管が詰まるのが「脳梗塞」で、これには動脈硬化のある場所が詰まる「脳血栓」と、心臓に病気があって心臓にできた血の固まりが血流で脳に運ばれて詰まったりする「脳塞栓」の2つがあります。ほかにもありますが、脳卒中は主にこれらを指します。
Q:日本ではどの病気が一番多いですか。
A昔は脳出血が多かったが、最近は脳梗塞が多い。脳出血が減ったのは最大のリスクファクターである高血圧の治療が進んだため。食生活が改善されていることも減った理由。一方、脳梗塞が増えているのは、人々が長生きするようになり、動脈硬化と心臓病(不整脈)の人が増えたため。ただ、死につながるようなひどい出血のケースは減っているが、患者数は減っていない。死亡率が減ったということと、患者が減ったということは別です。したがって、脳血管障害の後遺症として、歩きにくい、ボケてきた、寝たきり、など介助が必要な患者さんの数はどんどん増えており、社会的には大きな問題になっています。
Q:どんな人が脳卒中を注意しなくてはいけないのでしょう。
A:やはり高血圧の人でしょう。高血圧が長く続いていると血管は固くなり、だんだん動脈硬化が起こってくるようになる。高血圧が直接に脳梗塞や脳出血を起こすのではなく、高血圧による動脈の変化、老化が脳血管障害を引き起こすのです。そして糖尿病や高脂血症の人も要注意です。生活習慣病ということでいえばタバコですね。昔はタバコは心臓に悪いが脳には関係ないと言われていたが、最近、ヘビースモーカーは脳血栓を起こしやすいというデータがあります。アルコールは適量なら影響ないでしょう。適量とはどの位かという議論はありますが、大量摂取はいけません。
Q:男性は女性より脳卒中が多いそうですが。
A:そうです。女性は男性に比べて脳卒中を起こしやすい生活習慣が少ない。さらに女性ホルモンの影響もあって動脈硬化が軽い。しかし、女性も更年期後は男性と同じになります。
Q:高血圧は血圧を測定すればだれでも分かりますが、動脈硬化が進んでいるかどうかというのはどうしたら分かるのですか。
A:高血圧、糖尿があって、高脂血症の人などというリスクファクターのある人は中年以降になると、まず動脈硬化ありと考えていい。全身の血管の写真を撮る訳にはいかないが、脳に近い所ということで眼底の血管を見る。MRI(核磁気共鳴映像法)で見るとかで血管の動脈硬化を調べる方法もありますが、これは何らかの症状があるならともかく、通常の健康診断で調べるというものではありません。
Q:脳卒中の前兆について教えください。
A:手足がしびれる、言葉がしゃべりにくくなる、一瞬片目が見えなくなるなどということが数分から一時間続く状態、これを一過性脳虚血発作(TIA)といいますが、これは脳梗塞の警告症状です。クモ膜下出血の警告症状としては動脈瘤が破れる時のひどい頭痛がある。一般的に脳梗塞は寝ている最中に起こることが多く、脳出血やクモ膜下出血は日中の活動時に起きることが多い。
また、何となく頭が重い、ふらふらする、耳鳴りがするなどという不定愁訴に近いものは、やはり脳血流の循環が悪くなっていることの一つの警告と考えられます。ほかに、立ち上がった時に目の前が暗くなって座り込む、いわゆる立ちくらみも高齢者では脳卒中の警告症状と考えられます。
しかし、何の前駆症状もなかったという人の方が多い。何の前触れもない病気だから、「卒中」といわれるのです。
でも前駆症状があってからでは遅い。前駆症状とはいえ軽い発作。なによりリスクファクターが問題で、リスクファクターがあれば、脳卒中が起こり得るという前提で(リスクファクターの)治療を始める。
Q:どうしたら予防できますか。
A:血管の内面が正常ならいくら血液が固まりやすい状態でも絶対に血管は詰まりません。だから脳の血管をできるだけ若々しく保つことが重要です。高血圧なら塩分を控える、コレステロールが高ければ動物性脂肪の食事を減らす、糖尿病ならカロリーを控えて運動をするなど、リスクファクターを減らすことが大切です。
もう1つが、頭を使い、手足を動かすことです。頭を使えば脳の血流が増え、手を動かせば手を動かす脳の領域の血流が増えます。また、血液が濃くなると血が流れにくくなるので、適当に水分を補給して血液の濃縮を避けることです。サウナや運動で汗をかいたら、すぐ水分を補給することが大切です。
Q:風呂とかトイレに関しては注意事項はないのですか。
A:これは主に発作が起きた患者への注意事項ですが、動脈硬化が進んでいる人などにも必要なので紹介します。風呂は長湯をせず、急に立ち上がらないこと。立ち上がったとたんに血圧が下がって失神することがあります。また熱い湯はよくない。トイレで息むと血圧が急激に上がり、発作の引き金になります。だから便秘にならないように。
Q:先生ご自身の予防法は何ですか。
A:私自身には脳卒中のリスクファクターはないから特別な注意はしておりません。タバコは10年前から吸っていない。コレステロールも低目だし、どちらかというと低血圧だし。