欧米においては近年、男性においても女性においても、運動を含む身体活動と脳卒中のリスクの間には統計的に有意な負の相関関係があるとする報告が増えています。すなわち身体的に活発な人ほど、脳卒中の発症が少なく、逆に不活発なほど脳卒中の発症が多いとのことです(図)。この負の相関関係は脳卒中を梗塞性と出血性の2のタイプに分けて別々に検討しても観察されています。この理由として、運動を含む身体活動は、循環器系疾患の既知のリスクファクターを改善することがあげられています。運動は血小板凝集能を低下させ、インスリンの感受性を高め、体重を減少し、HDL−コレステロールを高め、血圧を下げるよう働くからです。
しかし、わが国での事情は欧米とはかなり異なっています。かって、わが国では日本型食生活とも相まって肉体労働の過重な人々に高血圧が多く発生し、これを基盤として脳卒中は高率に発生していたからです。すなわち、当時は身体活動は高血圧や脳卒中の発症と正の相関を示していたともいえるわけです。また、人々は日常生活でかなりからだを動かしており、運動をするような余裕がなかった時代でもありました。その後、農村、都市を問わず、人々の生活環境は大きく変わってきたのは周知の通りです。人々の労働を通じた身体活動は減少し、食生活の欧米化がすすんできました。この生活環境の影響を受け、脳卒中の発症はかなり減少してきています。中でも高血圧や低コレステロール血症の影響を最も受けやすい脳底部から脳内に血液を送る穿通肢系の脳出血が激減し、代わって穿通肢系脳梗塞(ラクナ梗塞)が一次増えたものの、それも現在減少傾向にあります。一方、欧米で多いとされる脳表から脳内に血液を送る皮質枝系の脳梗塞は、従来日本では極めて少なかったのですが、近年、都市部などでは増えてきているとの報告があります。
脳卒中は長年の生活環境の影響を受けて生じた血管病変を基盤として発生します。したがって、現在の脳卒中の発症には過去の日本型の生活環境に加え、近年の比較的欧米化された生活環境の影響が加わっていると考えられます。それは今のところ、全体として脳卒中の発症の減少につながっています。今後、欧米のような身体活動不足や高コレステロール血症と関連したタイプの脳卒中が割合として増えてくるのか、それらと運動を含めた身体活動との関連はどうか。これらはこれから解明していくべき課題と言えましょう。